看護職の方へある時広場への投稿事例1

トップページ > 看護職の方へ > 大阪府看護協会の事例 > ある時広場への投稿事例1

事例1 もう1度 あの味を...
 A氏(60歳代)神経変性疾患 療養目的で入院中 キーパーソンは妹
 入院後、誤嚥性肺炎を繰り返しており、本人・家族間で話し合い、経管栄養・CVC挿入はせず末梢からの補液と経口摂取を継続していくこととなった。病状進行に伴い、嚥下反射遅延や摂取時の誤嚥兆候が見られた。しかし、A氏は経口摂取を希望しており、昼のみゼリー食を提供していたが、摂取後の酸素飽和度低下が生じていた。A氏の推定予後は週〜月単位。
 A氏はスムーズな発語は難しかったが、短い単語や「はい/いいえ」での意志表示は可能であった。

ACPアプローチ ある時

    • 本人・家族
    • 看護師
    • 気づく
    • A氏
      「何か食べたい」「(ゼリー食は)味がしない」
    • 病状進行に伴い、ゼリー食でも経口摂取が難しい段階になってきている
      本人は経口摂取継続を希望しているが、いつまで続けられるか
      絶食にすることで安全は守られるかもしれないが、本人の希望には沿えないことになる
    • 患者と
      共有

    • 「元々食べることがすごく好き
      好き嫌いはなくて、何でも食べていた
      何も口にできないとなると、兄は辛いと思う」
    • 食事をすることが本人にとってどのような意味合いを持つのか知る必要がある
      元々食事に対してどのような思いを持っていたのか、家族に聞いてみよう
    • 動機付け

    • 「兄がやりたいことをやって、もし何かあればそれは仕方ないことだと思う」
      「難しいかもしれないけれど、何か口から味わえたらいいなと思う」
      「何かしてあげたいけど、何をすれば良いのかわからない」と流涙される
      A氏
      「何か口にしたい」
      冷たいものの摂取希望あり
    • 言語聴覚士へ嚥下機能評価を依頼
      →嚥下機能の著明な低下があり、経口摂取困難であると判断される
      多職種カンファレンスを実施(医師、看護師、言語聴覚士、理学療法士)
      →経口摂取をすることで、状態悪化の可能性を十分に説明し、A氏・妹の希望を改めて確認し、介入方法を検討していくこととなった
    • 場作り
    • 本人
      チームカンファレンス後に提案された
      メニュー表を指差し、自分で味を選択するようになった。
      「アイス棒しますか?」と問いかけると表情が穏やかになることが多くみられた
      妹来院時に、A氏に何か食べたいものがないか聞くと「あんぱん」と返答があった
      面会時に妹からA氏へアイス棒を手渡してもらう
      A氏が希望する味があれば、持参してもらう(妹の無力感に対しての精神的サポート)

    • チームカンファレンスを実施
      冷たく味わいを楽しめる方法を検討
      →アイス綿棒(様々な味のジュースなどを綿棒に浸して凍らせたもの)を舌尖に当てる方法を1回/日から開始し、徐々に回数を増やしていくこととした
      →味を自身で選択できるようにメニュー表を作成した
      目標として本人・家族の希望を支えていく
      今後更なる状態変化が予測されるため、妹の思いの変化が生じる可能性も高い
      妹来院時には看護師から状態を伝え、思いの変化がないかを確認し、必要に応じて主治医からの説明を行っていく
    • 反応・結果
    • 実施
    • 生きるを
      支える
    • 反応・結果
      本人
      「美味しい(味)分かる」
      「(妹へ)いつもありがとう」

      「私にできることなんて無いと思っていたけれど、私が持ってきたおしるこを味わってくれただけでも嬉しかった
      最期は何も口にできないと思っていたから、兄らしい時間を過ごせたんじゃないかなと思う」
    • 実施
      主治医と相談し、あんぱんの摂取は難しいため、おしるこをアイス棒に浸して凍らせたものを試してみることになった
      病状進行に伴い、アイス棒摂取後の呼吸状態悪化などが出現していった
      その都度、妹・主治医を含む多職種で話し合いを行い、アイス棒摂取により呼吸状態悪化を認めたとしても、A氏が摂取を希望するようであれば、本人の希望を重視してアイス棒摂取を継続することにした
      亡くなる前日までアイス棒摂取を続けることができた
考え方のポイント
患者の意思が尊重されるためには、家族も含めた合意形成が必要です。
看護師として、合意形成を促進する場作りをし、多職種や家族と繰り返し検討することで、関わる全員がその決定に納得し、患者の「何か味わいたい」という目標に向けて介入することができました。
状態が悪化するなかでも、医療者・家族間のコミュニケーションを密に図り、本人・家族の希望と本人にとっての最善は何かを繰り返し話し合うことで、最期まで同じ目標に向かって支援していくことに繋がったと考えます。

看護協会についてCONTENTS